『 走れ! ジョー  ― (2) ― 』

 

 

 

ある晴れた日の昼下がり のこと。

 

 

       ドッ タ −−−−− ン !!!!

 

 

轟音がギルモア邸中に響き 実際ビリビリと壁が揺れた。

 

「 な なにごとじゃ?? 地震か?

「 !? て 敵襲??  サーチ開始しますっ!!

 ―  なにも聞こえない。  なにも見えないわ ! 」

 

それぞれの場から この邸の同居人たちは驚愕しつつも 即行臨戦態勢をとった。

二人は この邸の取り決め通りに リビングに集合した。

万一の場合は このまま降下し地下格納庫のドルフィン号に搭乗する。

 

「 博士! ご無事ですか 」

「 あ ああ  大丈夫じゃ。  お前は 

「 わたしは大丈夫です。  ・・・ ジョー? 

 ! ジョー 返事して!  ・・・ 009? 応答せよ! 」

「 どうした?  

「 009が ・・・応答しません !!!

  ― ああ! 脳波通信にも応答がありませんっ

 ジョー〜〜〜 ジョー ・・・ 返事して 〜〜〜 

「 落ちつけ。  009はどこだ 」

「 !  探します ・・・  あ! 階段の下に ・・・ 」

「 なに?? 」

 

     タタタタタ  ドタドタ ・・・

 

二人は 二階からの階段下に駆け寄った。

 

 − そこには。

 

     「 ・・・ いってぇ 〜〜〜〜〜〜 」

 

茶髪ボーイ が 所謂ヘソ天になり呻いていた。

 

「「 ジョー !!! 」」

 

二人は駆け寄り、 博士はすぐに彼の瞳から脳内のデータを読む。

フランソワーズは 超視覚で009の人工脳をざっとスキャン始めた。

「 ・・・ ふむ。 とりあえず目立つ損傷は ない 」

「 こちらも − ほぼ異常ナシです 」

「「 よかった〜 ・・・ 」」

二人は一応胸を撫でおろした が。

ご本人は ず〜〜っとヘソ天のまま 唸っている。

 

       これは ・・・

 

       頭脳内に深刻なダメージが ??

       それとも 人工脊髄を損傷したか??

 

 

博士もフランソワーズも 再び暗い表情になってしまう。

「 ・・・ いったい どうしたのかね? 」

「 ジョー。  ・・・ 落ちた の? 加速装置は?? 」

 

    う 〜〜〜〜    いってぇ〜〜〜〜

    ・・・ スリッパが ひっかかって ・・・・

    落っこちて  − 

 

    そのう  ガムで舌が ・・・ う 動かなくて ・・・

    スイッチ ・・・ on に できな くて ・・・

 

    ずっとガムと ・・・ 格闘してて・・・

 

    そのまんま  ど〜〜ん ・・・って ・・・

 

「「  はあ ???  」」

 

そう。 009 いや 島村クンは 足を滑らせ階段から落ちた だけ。

くちゃくちゃガムを噛んでいたので  加速そ〜ち  できなかったのだ!

 

   さらに。  

 

落ちる最中に 姿勢を変える とか 咄嗟に受け身の体勢をとる どころか 

ず〜〜〜〜っと 口の中のガムと! 闘っていた だけだったので。

その結果 無様にも 背中とオシリから階段下に着地した、という訳だ。

 

  ・・・ 階段の下の床は 凹みかなりのヒビが入ってしまった・・・

 

この件に関して 彼は同居人たちから集中砲火を喰らった。

「 ・・・ ったく ・・・

 滑ったのは 偶然、と理解しよう。 誰しも足を滑らすことは ある。

 しかし だな。  なんのために 加速装置 がある?? 

「 ・・・ はあ ・・・ あの ・・・ そのう・・・

 ですから ・・・・ たまたま ガム、噛んでて ・・・ 」

「 ガム???  小学生ではないぞ! 」

「 ・・・ あのう 今はオトナでも ガム ・・・ 」

「 さいぼーぐはガムなど噛む必要はな〜〜〜い 」

「 ・・・ 差別 だぁ ・・・ 」

「 なんじゃと?? 

「 な なんでも アリマセン 」

「 さらに だな。  装置を使えない状態だ、と判断したら

 咄嗟に受け身の姿勢をとる ・・とか対処方はいくらでもあるだろうが!

「 ・・・ あのう  ガムが 」

「 また ガムか!? 」

「 そのう  ガムが奥歯のスイッチんとこに挟まって〜〜 

 あの それを取ろうと ・・・ 」

 

      ぴき。   博士の額に (怒) マーク。

 

「 ― 以後 サイボーグ諸君は ガム と関係を断つ。

 あの赤毛にもよ〜〜〜く伝えておくように。 」

「 ・・・ は  はい ・・・ 」

「 で。  床のヒビは ・・・ あそこの床はドルフィン号と同じ素材の上に

 桧の一枚板を貼ってあるんじゃ。 」

「 ・・・ あ  あの。  修理 シマス 

「 当然じゃ。  廃材は地下格納庫にあるから 自分で持ってくること。

それと 以後 お前はガム絶対禁止じゃ! 」

「 ・・・ はい ・・・ 」

 

        まだ 背中 イタイんだけどなあ・・・

        ドルフィン号の廃材ってめたくそ重いし★

 

        ・・・ なんだかツラいこと、ばっかだなあ

        神父さまぁ・・・ ぼく ワルイ子 ですか・・・

 

009は なんだか シワシワ・009 になって

しょんぼり ・・・ 地下に向かっていた。

 

 

 

金髪美女の突っ込みは さらに手厳しいものだった。

 

アルベルトのコンサートに続き グレートの劇団の舞台が大喝采で

楽日を終えた 数日後 ―

 

「 いっちに〜〜〜〜 さんし   に〜に っさんし 」

我らがジョー君は リビングで ジョギング前に じゅうなんたいそう と本人が

称する 動き をしていた。

 

「 ・・・・・ 」

 

そんな時 朝のストレッチを終えた彼女が 稽古場から上がってきた。

彼女は つくづくと この最新型 ( といわれている ) サイボーグの

動きを眺める。

そして 彼女はふか〜〜〜いため息をつく。

 

「  − だいたいねえ  身体 固すぎじゃない? 

 ちゃんと鍛えておかないと ・・・ どんどん鈍くなるわよ

「 ・・・ え 」

「 この前のことだけど。

 たとえ 足を滑らせても すぐに体勢を立て直せないと・・・

 柔軟性をちゃんと鍛える必要があるわ 」

「 え ・・・ あの でもね 鍛えるっても ・・・

 ぼくはそのう  さいぼ〜ぐ  なんで  ・・・ 

 これ以上 どうも変化しない ・・・ って 」

「 ええ  サイボーグですわね  ―  わたくしも。 」

この邸の紅一点は つ・・・と立ち上がると 

耳の横まで脚をゆっくりと上げて 止めた。 

手? もちろん腕組みをしたままだ。

 

       げ★  

 

ジョーはしばし その姿を見つめたまま固まっていた。

 

「 ・・・ あ 〜〜 どっか改造して もらった? 」

「 いいえ。 どこも。  自前の筋肉ですわ。 」

「 じ 自前??  ってことは  」

「 ストレッチしてレッスンして鍛えてきたの。 コドモの頃から。

 でもね だれでも身体は柔軟になるの。 」

「 ・・・ え  ぼ ぼく でも?? 」

「 はい。 アルベルトや グレートも しっかり身体を管理しているわ。

 二人とも 柔軟性の大切さをちゃんと理解しているの。

 博士だって 毎朝のストレッチで柔軟なお身体よ? 」

「 ・・・ そ そうなんだ? 」

「 そうです。 だから ジョー君もストレッチしましょう  

 さあレッスン室にどうぞ 」

「 ・・・ ひ え ・・・ 」

彼女は 有無を言わせず この 棒人間 を彼女のレッスン室へ

ひっぱって行った。

 

       うわあ  −−−−−

 

       ぼ ぼく ・・・ 生きて帰れる か な

 

とりあえず 着替えましょう、と二人は更衣室に別れた。

 

       着替え・・・って 

     

       あ♪  フランってば〜〜

       あの水着みたいなのになるのかな〜〜

 

       うっひゃ〜〜〜 うはは(^^

 

か〜なりな妄想でハナの下をびろ〜〜んと伸ばした彼であったが。

 

「 これで  いいかなあ 」

ジョーは 朝のジョギング姿 に着替えてきた。

よ〜するに 某有名社のロゴ入り・ジャージーの上下 ってことだ。

「 ええ ええ 十分よ。  あら 結構カッコイイじゃない? 

「 結構・・・?  自信 あるんだけどぉ ・・・ 」

「 はい? 」

「 ・・・ なんでもアリマセン ・・・ 」

「 そう?  あのね 柔軟で軽快な身の動きを身に着ければ 最高よ 」

「 ・・・ む 無敵 ってこと? 」

「 そ♪  正真正銘の 最強最新型 になれるわ。」

「 そっかあ 〜〜 」

「 じゃ  始めましょ。 まずは フロアから 」

「 ・・・ は はい 」

「 座ってくださ〜い 

「 はい 」

「 開脚して ・・・あらあ  脚 もっと開かない? 」

「 ・・・ むりデス 」

「 あ〜ら そんなこと なくてよ〜〜  ほらあ〜〜〜 」

 

    ぐい〜〜〜ん   彼女はジョーの脚を無慈悲に引っ張った。

 

「 おわああ〜〜〜〜〜 」

「 ・・・ ま 最初はこの位にしときましょ。

 はい 上半身を前に倒してみてくださ〜〜い 

 お手手で あんよがつかめますかあ〜〜〜 ? 」

 

      ぎ  し。   

 

彼の手は ひらひら・・・ 遥か膝の上あたりで彷徨っている。

「 あらあ?  ほうら〜〜〜 こうやって・・・ 」

ぐうん ・・・ 彼女が彼の背中にのしかかってきた。

背中に 温かい身体が密着しあま〜〜い香が漂う・・・ 

のだが そんなコトに気付いている余裕は ― 

 

          ま〜〜〜〜ったく なかった。

 

「  !  う  うあ〜〜〜 」

「 あらあら ほら 息、吐いて〜〜〜 りら〜〜くす♪ 」

 

     ぎし  ぎしぎしぎし    ぴきん。

 

ジョーの腰も 脚の後ろ側も 悲鳴を上げ始めた。

「 あらら  お膝を曲げては だめですよぉ〜 」

「 !  !!  こ  壊れる〜〜 こわれるよぉ〜〜 フラン〜〜 」

「 あら このくらいじゃ 壊れません? さいぼ〜ぐ なのでしょう? 」

「 ・・・ うわあああ 〜〜〜〜〜 」

「 ね? これ 毎日やっていればね   ほうら 」

 

    ぺったん。  するり。

 

彼女は 180度開脚した間に上半身を倒し、そのまま両脚を180度外回しした。

扇を ひらり、と開くみたいに ・・・

「 ―  ね。  簡単でしょ(^^♪ 」

すっとたちあがり にっこり。

 

       う 〜〜〜〜〜〜〜〜〜そ ぉ ・・・・

 

       に・・・ ニンゲンじゃ ねぇ ・・・

 

「 じゃ 次はね 上体起こし。  腹這いになって? 」

「 う ・・・ うううう  こ 腰が ・・・ 」

「 はい? どうかしました? 」

「 ・・・ な なんでもアリマセン 」

「 そう? はい 腹這いになって〜〜 ほら上体を起こしてみましょ 」

「 ・・・ む ムリです ・・・ 」

「 大丈夫〜〜〜 腕を伸ばして ほ〜ら 」

彼女は 彼の両腕を掴み ぐう〜〜ん と上方に引っ張った。

 

   めきめきめき・・・ うわああ〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「 ? どうか して? 」

「 せ 背中が ・・・ こ 腰が こわれ ・・・る ・・・ 」

「 だあ〜いじょうぶ♪ そんなに簡単に壊れません?

 それじゃね、両手を床に付いて  上体を起こしてみましょ

 ほおら せんせ〜と一緒にやりましょうねえ 」

「 ・・・ う  ううう 」

彼女は彼とならんで腹這いになると手を突いて上体を起こした。

「 これなら 出来るでしょう? 」

「 ・・・ あ  う   うん ・・・ 」

彼は腕力にモノをいわせ 自分の上半身を支えた。

「 そう そう 上手よ 

「 あ ・・ は ・・・ そ そっかな〜〜 

「 ええ。 次はねえ 両腕を上に伸ばしてみましょう?

 さあ お星さままで とどくかなあ〜〜〜? 

「 ・・ 手 ・・・ は はなす の・・・? 」

「 そうですよ〜〜 せんせ〜も一緒にやりますよ〜

 いい?  ・・・ せ〜の ! 」

 

      す ・・・  

 

彼女は上半身をほぼ垂直に起こしたまま 両腕を優雅に上に伸ばし

 アームス アンオー のポジションをとった。

美しい L字型 となり にこやか〜〜に微笑む。

「 ・・・  すげ ・・・ 」

「 さあ ジョーも。  勇気をだして いっ せ〜の〜〜 」

彼は こそ・・・っと 例のセリフを口の中で唱え ( あとは・・・ )

 

   手を ―  はなした ・・・ !

 

      ざ。    ごん。

 

腕を床から離した瞬間  ―  彼は床にしたたか額を打ち付けた ・・・

 

「 !!  いってぇ〜〜〜〜〜〜 」

「 あらら  ほら 腹筋と背筋で 上半身キープ! 」

「 ・・・ む 〜〜〜 り〜〜〜〜〜〜 」 

「 むり じゃありませんよ  それじゃね〜

 先生と一緒に腹筋と背筋、やりましょうか  」

「 ・・・ は はい ( ううう ぼく 精密機器なのに・・・

 床に落としちゃ いけないと思う! ) 」

「 は〜い それじゃ一緒にふっき〜〜〜ん♪

 いち に さん  三拍子ね  あん どぅ とろわ〜〜 」

フランソワーズ先生は 普通にしゃべりながら易々と そして軽々と

さらに 的確に  腹筋運動を続けてゆく。

「 ・・・ はっ   ほっ 〜〜〜〜 」

「 あらあら  ジョーくん お膝 のばして? 」

「 う ・・・ うう ・・・ 」

 

   ぎくしゃく ぎくしゃく   ごとん  どん

 

「 ・・・も ・・・だめ  ・・・ですぅ ・・・ 」

情けなくも 彼は10回未満で沈没してしまった・・・

「 あらら ・・・ 疲れちゃったかなあ?

 あのねえ チカラ技でぎこぎこやったらツライだけ。

 反動で起き上がっていたら 腹筋運動にはならないわ 」

「 ・・・ じゃ どうしたら ・・・? 」

「 三拍子で 歌でも歌う気分で〜〜〜  膝は伸ばして

 爪先も伸ばしましょうか  ・・・ ほおら 」

 

   す ・・・  す ・・・ す ・・・

 

なんの苦労もなく? どこにチカラが入っているかも

わからないほどの滑らかな動きで 彼女は楽々 腹筋運動をする。

 

      す ・・・っげ ・・・・

 

「 ? なあに どうか、した? 」

「 あ  う ううん ・・・ あ いや  すごいなあ〜 って。 」

「 すごくなんかないわ。 わたしは小さい頃からやってきただけ。 

 ジョーだって少しづつやれば 」

「 ・・・ 床に 頭、付くように なる かな? 」

「 なりますよ〜〜〜 」 

「 そ そっか ・・・ それなら がんばれるかなあ 」

「 大丈夫。  ほら 毎朝 ジョギングしているでしょう?

 体力もアップしてるはずよ 」

「 それは  まあ ・・・ 」

「 その体力に柔軟性が加わったら もう無敵(^^♪ 」

「 そ そっかぁ〜〜 ♪ 」

 

    ・・・ ジョー君は 単純である ・・・

 

「 あの 実はさ。  戦闘中に ぱっと振り返って射撃した時に 」

「 した時に ? 」

「 ・・・ うん ・・・ 腰が  ぴきん  」

「 あらあ〜〜  それもね ストレッチしてれば防げるわ。

 こうやってね〜〜〜 ブリッジもいいのよ 」

 

     す ・・・   すとん。

 

彼女はその場で後ろに反り床にそのまま床に手を突いた

 

「 これで 腰の筋肉も伸びるし 」

「 ・・・・ ! 」

 

      !  に ニンゲン・ぶりっじ だ ・・・

      う う  ウソだろ〜〜〜〜〜???

      なんでこんなコト できるんだ??

 

      ぜ 003は トクベツ仕様 なのか・・・・?

 

「 ね やってみてね〜 」

ひょい と 彼女は楽々と身体を起こし にっこり。

「 ・・・ フランって  ・・・ すご ・・・ 」

「 すごくなんかないの、 わたし達の世界ではね。 」

「 え ・・・ だってさあ フランってめっちゃ柔らかいじゃん 」

「 う〜ん    ま 普通 ってとこ。 

 本当にもっと柔らかいヒトっていっぱいいるのよ 」

「 ひええ〜〜〜〜〜〜  柔らかくないと 踊れない の? 」

「 そんなコトないけど ・・・ 

 まあねえ わたしらの世界では柔軟性は < 当たり前 > なのね 」

「 ・・・ ふうん ・・・  」

「 ジョーは ガチガチじゃない程度でいいじゃない? 

 体力と柔軟性で − 最強よ♪ 」

「 えへ ・・・ そ そっかなあ〜〜〜

 うん ぼくもさ 早起きしてジョギングして 柔軟体操もする! 」

「 そうよ〜〜 そうすれば − 階段から 背中とオシリで落ちる なんて

 ことはなくなると思うわ 」

「 ― え えへへ ・・・ そう だね 」

 

  ことん。  温かい背中が 彼に寄りかかってきた。

 

        お ・・・?

        えへ ・・・ いい匂いだなあ〜〜

        き〜もちい〜〜〜〜♪

 

「 ・・・でも ね。 オシリから落っこちちゃうジョーが 

 好き だわ   わたし。 」

「 え・・・ あ  あのぅ〜〜  カッコ悪いだろ だって。

 棒ニンゲンだし ・・・ カッコよくスーツとか着れないしさ 

「 そんなこと ・・・。

 今まで経験がなかっただけでしょ? 」

「 ・・・ うん  まあ  ね。 」

「 この国に来てわかったわ。  正装してお出かけ とか・・・

 ああいう機会がほとんどないのね。 」

「 そう かも ・・・ 」

「 まったく無いわけでもないし − 慣れて行けばいいのよ。

 この邸には そういう世界にかかわっているヒトが多いから 」

「 だよね〜〜〜 役者さんにピアニストにバレリーナ ・・・

 すごすぎるよ〜〜〜 」

「 うふふ ・・・ 芸術的な環境 と言ってちょうだい。 」

「 ・・・ せめて ぼくに出来るコト するよ。

 うん ジョギング、続けよ。  」

「 そうよ それがいいわ。  ねえ 今度 初心者でも走れるコース

 教えてね 」

「 ・・・ いいけど  誰かに推薦するの? 」

「 わ た し。  少し体力 アップしたいの。 」

「 わあ〜〜〜ぉ♪  うん 景色のいいコース、探してくるね 

「 お願いシマス 〜〜 」

「 い 一緒に走れたら いいなあ〜〜 」

「 うふふ あら わたし、ペース遅いから・・・

 ジョー 飽きちゃうわよ。 」

「 そ そんなこと ないよ! 絶対に!! 」

「 先に行っていいの。  ・・・待っててくれれば 」

「 うん♪ 」

「 さ。 シャワー浴びて汗 流しましょ?

 ジョー 汗びっしょりだわ 」

「 あ ・・・ 」

気付けば 彼のジャージは汗滲みで色が変わっていた。

 

     は ははは ・・・

     これって 冷や汗 なんだよなあ〜〜

 

     ああ フランってば全然爽やかな顔だし。

     ・・・ すごい。 すごいよ〜〜〜

 

ジョーは 毎朝のジョギングを固く 固く 決意するのだった!

 

 

     ガタン  カタカタ −−−

 

二人が玄関ホールに上がってきた時、 階段が軽やかな足音を響かせた。

 

「  おう 諸君  おはよう〜 」

 

楽日を終えた主演俳優氏が 自室から降りてきた。 

チノパンにポロシャツ・・・  ラフな服装だ。

「 あらあ おはようございます。  あら もうお出かけ? 」

「 おはよ〜 グレート。  早出なら駅まで送るよ? 」

ワカモノたちの申し出に 名俳優氏はにこやかに手を振る。

見れば スポーツバッグにラケットを持っている。

「 いやいや ・・・ 今朝は テニスの約束があってな 」

「 まあ そうなの?  どちらへ 」

「 横須賀の会員制クラブでな。  予約を入れた 」

「 あら(^^♪  も〜しかして〜〜 ウチのマダムと ? 」

「 あ?  あっはっは〜〜〜〜 ノー ノー 

 もとプロの熟年ご婦人に誘われましてね  」

「 へ〜〜え♪  楽しい時間を♪ 

「 いいな〜〜〜  ねえ 今度 ぼくにも教えてクダサイ 」

「 おお ボーイ、 市営コートで鍛錬しラリーが出来るようになったら

 誘おうよ 

「 − わかった〜〜〜 」

「 ああ お前さんとこのマダムといえば ・・・ マドモアゼル?

 次回の創作小品は  『 リア王 』 だと。 」

「 え。 マダムの ?? 」

「 左様。 吾輩の舞台から多大なるインスピレーションを受けた と。 」

「 そう・・・ なの ・・・ どんな作品かしら 」

「 まあ 楽しみに ― レッスンを怠りなく、とだけ言っておこう 」

 

  ではな〜〜 ・・・ 

 

と 俳優氏は軽くウィンクを残すと玄関から出ていった。

 

「 ・・・なんかさ〜〜 グレートって。  カッコイイ ・・・ 」

「 うふふ・・・ 彼はいつでもステキよ 」

「 ・・・ん ・・・ あ フラン、 次の舞台の話? 」

「 新作ね 物凄く楽しみだわ 」

「 フラン ・・・ 出る? 」

「 ううん ううん とても とても・・・ マダムの創作を踊るのは

 主役級の方々よ。 わたしはコールドに引っ掛かれば最高 ってとこ 」

「 ふうん ・・・ 大変なんだねえ 」

「 ま ね・・・ 世の中、甘くはないってこと。 」

「 そっか ・・・ うん そうだね 

 

   ふわ〜〜〜ん ・・・ コーヒーの香りが流れてくる。

 

「 あ  コーヒーだあ〜〜〜 ふんふんふん♪ 」

「 いい香り・・・ アルベルトね 」

 

リビングのドアを開ければ アルベルトが のんびりコーヒーを淹れていた。

 

「「 おはよう〜〜 アルベルト 」」

「 お?  ああ おはよう 」

銀髪のピアニスト氏は 彼定番の黒の上下、ジャージではないが

ゆったりとした素材のホーム・ウェアだ。

 

       ふうん ・・・

       どんな服でも 雰囲気 あるなあ〜

 

       ・・・ 悔しいけど さ。

 

ジョーは 無意識に自分のジャージを引っ張っていた。

 

「 あ お疲れ様〜〜  演奏会、素敵な時間、ありがとう! 」

「 ふん ・・・ こちらこそ だ。 感謝してる。

 ありがとう。  お前さんとこのマダムにも御礼、言っといてくれ。 」

「 了解♪  ねえ ねえ アルベルトのショパンも いいわねえ 」

「 ふふん < も > は余計だ。 

 ああ お前ら 目立ってたぞ  」

「 え あらあ 注目の的だったのは グレート達よ 」

「 そ・・・ ぼくは突っ立っていただけ ・・・ 」

「 ・・・・ 」

銀髪のピアニスト氏は に・・・っと笑った。

 

    コトン  コトン。

 

二人の前に カフェ・オ・レ と 薄めのコーヒーが 置かれた。

「 あ わあ〜〜〜 メルシ〜〜 ♪ 」

「 ありがとう〜〜   ・・・ ウマ〜〜〜 」

「 ふふん  初々しくて微笑ましい、と評判だったぞ 」

「 え ・・・ 」

「 ジョー。 いつもスーツで畏まっていろ という訳じゃあないぞ?

 その時々に応じた態度をとれるようにしておけ。

 四六時中、 正装で畏まっている必要はない。 」

「 ・・・ うん ・・・ そっか ・・・ 」

「 お前が正装に慣れてないのは よ〜〜くわかってる。

 ただ な ちゃんとする時には それ相当の態度をとれ ということだ。

 なにも 野球観戦にスーツで行け とは言わん。 」

「 うん ・・・ だよね〜〜  いっつも防護服ってわけには 」

「 当たり前よぉ〜〜 」

「 ・・・ごめん 」

「 ま お前には その恰好が似合ってるさ。 ワカモノらしくていい。 」

「 えへ ・・・そ? 」

「 まあ〜〜〜 珍しい アルベルトが褒めるなんて 」

「 ふ ふん  ・・・ さあ 朝メシだぞ。 

 スクランブル・エッグ でよかったか 」

「 わあ〜〜 作ってくれたの?  ありがと〜〜〜 」

「 わほ♪ たべよ〜〜〜〜 

 

ワカモノ達は どたばた ・・・ キッチンに駆けていった。

 

 

「 そうだ!  フラン〜〜〜 野球観戦ゆこうよ〜〜 」

「 野球 ??  あの ・・・ わたし よく分らないのよ 

「 ぼくが説明する!  ハマスタ、気持ちいいよ〜〜〜 

 ヨコハマだからさ 港も近いし 

「 そう ・・? ジョーは ご贔屓のチームがあるの? 」

「 もっちろん♪ ぼく ハマっ子だぜ?   当然(^^♪ 」

「 ?? わからないけど ・・・ 」

「 いいッて いいって。 あ 出来たら ブルー系の服、着てくれる? 」

「 ?? いいけど ・・・ 」

「 チケット 予約しとくね〜〜〜  わっはは〜〜〜ん♪ 」

 

―   さて 当日はぴかぴかの 秋の空。

 

「 きっもちいいね〜〜〜〜 」

「 ほんとう ・・・・ ねえ 空の色が濃くなったわ 」

「 うん 高くみえるな〜〜   

 あ 今日はバスと電車でゆくけど いい? 

「 いい いい♪  あ〜〜 空気の色も違うわ ・・・ 

「 ふふふ  ね 帰りにさ 散歩しよ?  大通りとかキレイだよ 」

「 そうなの?  楽しみ〜〜 」

「 ぼくもさ♪   さ いこ 

 

   ぱっと 大きな手が差し出され ― ごく自然に白い手が乗せられた。

 

「 ハマスタへ〜〜〜  れっつご(^^♪  まどもあぜる〜 」

「 うふ   ありがと。  ・・・ あら すこし風があるわ

 なにか羽織るモノ、取ってくるわね 

「 あ ぼくのスタジャン どうぞ。 大きい? 袖とかまくって 」

「 いいの?  うふふ ・・・ ぶかぶかだけどいい感じ♪ 」

「 えへ ・・・・ 似合ってるぅ〜〜 」

さり気なく 俺のカノジョ をアピールできて ジョーはご機嫌ちゃんだ。

 

二人して手を繋いで  いざ ハマスタへ。

好カードで 昼ゲームだけど観客席は8割方 埋まっていた。

「 わあ すごいヒトねえ 」

「 ウン。 でもここからだと 選手もよ〜く見えるだろ 」

「 うふふ  ず〜〜〜む しちゃう♪     あら ステキなバッターさん♪ 」

「 あ あ ズル〜〜〜〜   博士〜〜 ぼくの眼にもズーム機能

 搭載してください〜〜〜 」

「 うふふ      あ!  このヒト 打つわ! 」

「 え ・・・?  あ〜〜〜 」

 

     か〜〜〜〜ん ・・・     ふぁうる・ぼ〜るにご注意ください

 

そんなアナウンスが流れる中 ―

 

「 あ あ 捕れそう〜〜〜 」

「 ! わ  あぶないってば〜〜〜〜 フラン〜〜 」

ファウル・ボールを捕ろうと 伸びあがる彼女を 彼は必死で捕まえた。

 

顔ブレブレの写真だが 金髪女子 と 茶髪ボーイ のその姿は

地元スポーツ紙に載り  おおいにファンを沸かせたのであった。

 

     「 ― ぼく 明日も走る ・・・ ! 」

 

            そうさ。     走れ !   ジョー 

 

**********************       Fin.       *********************

Last updated : 09.06.2022.           back      /     index

 

************    ひと言   ************

フランちゃんの ストレッチ・入門講座〜〜♪

さて ジョー君の ご贔屓チーム はどこでしょう (>_<)

筆者は つばくろう と一緒♪♪