『 走れ! ジョー ― (2) ― 』
ある晴れた日の昼下がり のこと。
ドッ タ ----- ン !!!!
轟音がギルモア邸中に響き 実際ビリビリと壁が揺れた。
「 な なにごとじゃ?? 地震か? 」
「 !? て 敵襲?? サーチ開始しますっ!!
― なにも聞こえない。 なにも見えないわ ! 」
それぞれの場から この邸の同居人たちは驚愕しつつも 即行臨戦態勢をとった。
二人は この邸の取り決め通りに リビングに集合した。
万一の場合は このまま降下し地下格納庫のドルフィン号に搭乗する。
「 博士! ご無事ですか 」
「 あ ああ 大丈夫じゃ。 お前は 」
「 わたしは大丈夫です。 ・・・ ジョー?
! ジョー 返事して! ・・・ 009? 応答せよ! 」
「 どうした?
」
「 009が ・・・応答しません !!!
― ああ! 脳波通信にも応答がありませんっ
ジョー~~~ ジョー ・・・ 返事して ~~~ 」
「 落ちつけ。 009はどこだ 」
「 ! 探します ・・・ あ! 階段の下に ・・・ 」
「 なに?? 」
タタタタタ ドタドタ ・・・
二人は 二階からの階段下に駆け寄った。
- そこには。
「 ・・・ いってぇ ~~~~~~ 」
茶髪ボーイ が 所謂ヘソ天になり呻いていた。
「「 ジョー !!! 」」
二人は駆け寄り、 博士はすぐに彼の瞳から脳内のデータを読む。
フランソワーズは 超視覚で009の人工脳をざっとスキャン始めた。
「 ・・・ ふむ。 とりあえず目立つ損傷は ない 」
「 こちらも - ほぼ異常ナシです 」
「「 よかった~ ・・・ 」」
二人は一応胸を撫でおろした が。
ご本人は ず~~っとヘソ天のまま 唸っている。
これは ・・・
頭脳内に深刻なダメージが ??
それとも 人工脊髄を損傷したか??
博士もフランソワーズも 再び暗い表情になってしまう。
「 ・・・ いったい どうしたのかね? 」
「 ジョー。 ・・・ 落ちた の? 加速装置は?? 」
う ~~~~ いってぇ~~~~
・・・ スリッパが ひっかかって ・・・・
落っこちて -
そのう ガムで舌が ・・・ う 動かなくて ・・・
スイッチ ・・・ on に できな くて ・・・
ずっとガムと ・・・ 格闘してて・・・
そのまんま ど~~ん ・・・って ・・・
「「 はあ ??? 」」
そう。 009 いや 島村クンは 足を滑らせ階段から落ちた だけ。
くちゃくちゃガムを噛んでいたので 加速そ~ち できなかったのだ!
さらに。
落ちる最中に 姿勢を変える とか 咄嗟に受け身の体勢をとる どころか
ず~~~~っと 口の中のガムと! 闘っていた だけだったので。
その結果 無様にも 背中とオシリから階段下に着地した、という訳だ。
・・・ 階段の下の床は 凹みかなりのヒビが入ってしまった・・・
この件に関して 彼は同居人たちから集中砲火を喰らった。
「 ・・・ ったく ・・・
滑ったのは 偶然、と理解しよう。 誰しも足を滑らすことは ある。
しかし だな。 なんのために 加速装置 がある?? 」
「 ・・・ はあ ・・・ あの ・・・ そのう・・・
ですから ・・・・ たまたま ガム、噛んでて ・・・ 」
「 ガム??? 小学生ではないぞ! 」
「 ・・・ あのう 今はオトナでも ガム ・・・ 」
「 さいぼーぐはガムなど噛む必要はな~~~い 」
「 ・・・ 差別 だぁ ・・・ 」
「 なんじゃと?? 」
「 な なんでも アリマセン 」
「 さらに だな。 装置を使えない状態だ、と判断したら
咄嗟に受け身の姿勢をとる ・・とか対処方はいくらでもあるだろうが! 」
「 ・・・ あのう ガムが 」
「 また ガムか!? 」
「 そのう ガムが奥歯のスイッチんとこに挟まって~~
あの それを取ろうと ・・・ 」
ぴき。 博士の額に (怒) マーク。
「 ― 以後 サイボーグ諸君は ガム と関係を断つ。
あの赤毛にもよ~~~く伝えておくように。 」
「 ・・・ は はい ・・・ 」
「 で。 床のヒビは ・・・ あそこの床はドルフィン号と同じ素材の上に
桧の一枚板を貼ってあるんじゃ。 」
「 ・・・ あ あの。 修理 シマス 」
「 当然じゃ。 廃材は地下格納庫にあるから 自分で持ってくること。
それと 以後 お前はガム絶対禁止じゃ! 」
「 ・・・ はい ・・・ 」
まだ 背中 イタイんだけどなあ・・・
ドルフィン号の廃材ってめたくそ重いし★
・・・ なんだかツラいこと、ばっかだなあ
神父さまぁ・・・ ぼく ワルイ子 ですか・・・
009は なんだか シワシワ・009 になって
しょんぼり ・・・ 地下に向かっていた。
金髪美女の突っ込みは さらに手厳しいものだった。
アルベルトのコンサートに続き グレートの劇団の舞台が大喝采で
楽日を終えた 数日後 ―
「 いっちに~~~~ さんし に~に っさんし 」
我らがジョー君は リビングで ジョギング前に じゅうなんたいそう と本人が
称する 動き をしていた。
「 ・・・・・ 」
そんな時 朝のストレッチを終えた彼女が 稽古場から上がってきた。
彼女は つくづくと この最新型 ( といわれている ) サイボーグの
動きを眺める。
そして 彼女はふか~~~いため息をつく。
「 - だいたいねえ 身体 固すぎじゃない?
ちゃんと鍛えておかないと ・・・ どんどん鈍くなるわよ 」
「 ・・・ え 」
「 この前のことだけど。
たとえ 足を滑らせても すぐに体勢を立て直せないと・・・
柔軟性をちゃんと鍛える必要があるわ 」
「 え ・・・ あの でもね 鍛えるっても ・・・
ぼくはそのう さいぼ~ぐ なんで ・・・
これ以上 どうも変化しない ・・・ って 」
「 ええ サイボーグですわね ― わたくしも。 」
この邸の紅一点は つ・・・と立ち上がると
耳の横まで脚をゆっくりと上げて 止めた。
手? もちろん腕組みをしたままだ。
げ★
ジョーはしばし その姿を見つめたまま固まっていた。
「 ・・・ あ ~~ どっか改造して もらった? 」
「 いいえ。 どこも。 自前の筋肉ですわ。 」
「 じ 自前?? ってことは 」
「 ストレッチしてレッスンして鍛えてきたの。 コドモの頃から。
でもね だれでも身体は柔軟になるの。 」
「 ・・・ え ぼ ぼく でも?? 」
「 はい。 アルベルトや グレートも しっかり身体を管理しているわ。
二人とも 柔軟性の大切さをちゃんと理解しているの。
博士だって 毎朝のストレッチで柔軟なお身体よ? 」
「 ・・・ そ そうなんだ? 」
「 そうです。 だから ジョー君もストレッチしましょう
さあレッスン室にどうぞ 」
「 ・・・ ひ え ・・・ 」
彼女は 有無を言わせず この 棒人間 を彼女のレッスン室へ
ひっぱって行った。
うわあ -----
ぼ ぼく ・・・ 生きて帰れる か な
とりあえず 着替えましょう、と二人は更衣室に別れた。
着替え・・・って
あ♪ フランってば~~
あの水着みたいなのになるのかな~~
うっひゃ~~~ うはは(^^♪
か~なりな妄想でハナの下をびろ~~んと伸ばした彼であったが。
「 これで いいかなあ 」
ジョーは 朝のジョギング姿 に着替えてきた。
よ~するに 某有名社のロゴ入り・ジャージーの上下 ってことだ。
「 ええ ええ 十分よ。 あら 結構カッコイイじゃない? 」
「 結構・・・? 自信 あるんだけどぉ ・・・ 」
「 はい? 」
「 ・・・ なんでもアリマセン ・・・ 」
「 そう? あのね 柔軟で軽快な身の動きを身に着ければ 最高よ 」
「 ・・・ む 無敵 ってこと? 」
「 そ♪ 正真正銘の 最強最新型 になれるわ。」
「 そっかあ ~~ 」
「 じゃ 始めましょ。 まずは フロアから 」
「 ・・・ は はい 」
「 座ってくださ~い 」
「 はい 」
「 開脚して ・・・あらあ 脚 もっと開かない? 」
「 ・・・ むりデス 」
「 あ~ら そんなこと なくてよ~~ ほらあ~~~ 」
ぐい~~~ん 彼女はジョーの脚を無慈悲に引っ張った。
「 おわああ~~~~~ 」
「 ・・・ ま 最初はこの位にしときましょ。
はい 上半身を前に倒してみてくださ~~い
お手手で あんよがつかめますかあ~~~ ? 」
ぎ し。
彼の手は ひらひら・・・ 遥か膝の上あたりで彷徨っている。
「 あらあ? ほうら~~~ こうやって・・・ 」
ぐうん ・・・ 彼女が彼の背中にのしかかってきた。
背中に 温かい身体が密着しあま~~い香が漂う・・・
のだが そんなコトに気付いている余裕は ―
ま~~~~ったく なかった。
「 ! う うあ~~~ 」
「 あらあら ほら 息、吐いて~~~ りら~~くす♪ 」
ぎし ぎしぎしぎし ぴきん。
ジョーの腰も 脚の後ろ側も 悲鳴を上げ始めた。
「 あらら お膝を曲げては だめですよぉ~ 」
「 ! !! こ 壊れる~~ こわれるよぉ~~ フラン~~ 」
「 あら このくらいじゃ 壊れません? さいぼ~ぐ なのでしょう? 」
「 ・・・ うわあああ ~~~~~ 」
「 ね? これ 毎日やっていればね ほうら 」
ぺったん。 するり。
彼女は 180度開脚した間に上半身を倒し、そのまま両脚を180度外回しした。
扇を ひらり、と開くみたいに ・・・
「 ― ね。 簡単でしょ(^^♪ 」
すっとたちあがり にっこり。
う ~~~~~~~~~そ ぉ ・・・・
に・・・ ニンゲンじゃ ねぇ ・・・
「 じゃ 次はね 上体起こし。 腹這いになって? 」
「 う ・・・ うううう こ 腰が ・・・ 」
「 はい? どうかしました? 」
「 ・・・ な なんでもアリマセン 」
「 そう? はい 腹這いになって~~ ほら上体を起こしてみましょ 」
「 ・・・ む ムリです ・・・ 」
「 大丈夫~~~ 腕を伸ばして ほ~ら 」
彼女は 彼の両腕を掴み ぐう~~ん と上方に引っ張った。
めきめきめき・・・ うわああ~~~~~~~~
「 ? どうか して? 」
「 せ 背中が ・・・ こ 腰が こわれ ・・・る ・・・ 」
「 だあ~いじょうぶ♪ そんなに簡単に壊れません?
それじゃね、両手を床に付いて 上体を起こしてみましょ
ほおら せんせ~と一緒にやりましょうねえ 」
「 ・・・ う ううう 」
彼女は彼とならんで腹這いになると手を突いて上体を起こした。
「 これなら 出来るでしょう? 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ 」
彼は腕力にモノをいわせ 自分の上半身を支えた。
「 そう そう 上手よ 」
「 あ ・・ は ・・・ そ そっかな~~ 」
「 ええ。 次はねえ 両腕を上に伸ばしてみましょう?
さあ お星さままで とどくかなあ~~~? 」
「 ・・ 手 ・・・ は はなす の・・・? 」
「 そうですよ~~ せんせ~も一緒にやりますよ~
いい? ・・・ せ~の ! 」
す ・・・
彼女は上半身をほぼ垂直に起こしたまま 両腕を優雅に上に伸ばし
アームス アンオー のポジションをとった。
美しい L字型 となり にこやか~~に微笑む。
「 ・・・ すげ ・・・ 」
「 さあ ジョーも。 勇気をだして いっ せ~の~~ 」
彼は こそ・・・っと 例のセリフを口の中で唱え ( あとは・・・ )
手を ― はなした ・・・ !
ざ。 ごん。
腕を床から離した瞬間 ― 彼は床にしたたか額を打ち付けた ・・・
「 !! いってぇ~~~~~~ 」
「 あらら ほら 腹筋と背筋で 上半身キープ! 」
「 ・・・ む ~~~ り~~~~~~ 」
「 むり じゃありませんよ それじゃね~
先生と一緒に腹筋と背筋、やりましょうか 」
「 ・・・ は はい ( ううう ぼく 精密機器なのに・・・
床に落としちゃ いけないと思う! ) 」
「 は~い それじゃ一緒にふっき~~~ん♪
いち に さん 三拍子ね あん どぅ とろわ~~ 」
フランソワーズ先生は 普通にしゃべりながら易々と そして軽々と
さらに 的確に 腹筋運動を続けてゆく。
「 ・・・ はっ ほっ ~~~~ 」
「 あらあら ジョーくん お膝 のばして? 」
「 う ・・・ うう ・・・ 」
ぎくしゃく ぎくしゃく ごとん どん
「 ・・・も ・・・だめ ・・・ですぅ ・・・ 」
情けなくも 彼は10回未満で沈没してしまった・・・
「 あらら ・・・ 疲れちゃったかなあ?
あのねえ チカラ技でぎこぎこやったらツライだけ。
反動で起き上がっていたら 腹筋運動にはならないわ 」
「 ・・・ じゃ どうしたら ・・・? 」
「 三拍子で 歌でも歌う気分で~~~ 膝は伸ばして
爪先も伸ばしましょうか ・・・ ほおら 」
す ・・・ す ・・・ す ・・・
なんの苦労もなく? どこにチカラが入っているかも
わからないほどの滑らかな動きで 彼女は楽々 腹筋運動をする。
す ・・・っげ ・・・・
「 ? なあに どうか、した? 」
「 あ う ううん ・・・ あ いや すごいなあ~ って。 」
「 すごくなんかないわ。 わたしは小さい頃からやってきただけ。
ジョーだって少しづつやれば 」
「 ・・・ 床に 頭、付くように なる かな? 」
「 なりますよ~~~ 」
「 そ そっか ・・・ それなら がんばれるかなあ 」
「 大丈夫。 ほら 毎朝 ジョギングしているでしょう?
体力もアップしてるはずよ 」
「 それは まあ ・・・ 」
「 その体力に柔軟性が加わったら もう無敵(^^♪ 」
「 そ そっかぁ~~ ♪ 」
・・・ ジョー君は 単純である ・・・
「 あの 実はさ。 戦闘中に ぱっと振り返って射撃した時に 」
「 した時に ? 」
「 ・・・ うん ・・・ 腰が ぴきん 」
「 あらあ~~ それもね ストレッチしてれば防げるわ。
こうやってね~~~ ブリッジもいいのよ 」
す ・・・ すとん。
彼女はその場で後ろに反り床にそのまま床に手を突いた
「 これで 腰の筋肉も伸びるし 」
「 ・・・・ ! 」
! に ニンゲン・ぶりっじ だ ・・・
う う ウソだろ~~~~~???
なんでこんなコト できるんだ??
ぜ 003は トクベツ仕様 なのか・・・・?
「 ね やってみてね~ 」
ひょい と 彼女は楽々と身体を起こし にっこり。
「 ・・・ フランって ・・・ すご ・・・ 」
「 すごくなんかないの、 わたし達の世界ではね。 」
「 え ・・・ だってさあ フランってめっちゃ柔らかいじゃん 」
「 う~ん ま 普通 ってとこ。
本当にもっと柔らかいヒトっていっぱいいるのよ 」
「 ひええ~~~~~~ 柔らかくないと 踊れない の? 」
「 そんなコトないけど ・・・
まあねえ わたしらの世界では柔軟性は < 当たり前 > なのね 」
「 ・・・ ふうん ・・・ 」
「 ジョーは ガチガチじゃない程度でいいじゃない?
体力と柔軟性で - 最強よ♪ 」
「 えへ ・・・ そ そっかなあ~~~
うん ぼくもさ 早起きしてジョギングして 柔軟体操もする! 」
「 そうよ~~ そうすれば - 階段から 背中とオシリで落ちる なんて
ことはなくなると思うわ 」
「 ― え えへへ ・・・ そう だね 」
ことん。 温かい背中が 彼に寄りかかってきた。
お ・・・?
えへ ・・・ いい匂いだなあ~~
き~もちい~~~~♪
「 ・・・でも ね。 オシリから落っこちちゃうジョーが
好き だわ わたし。 」
「 え・・・ あ あのぅ~~ カッコ悪いだろ だって。
棒ニンゲンだし ・・・ カッコよくスーツとか着れないしさ 」
「 そんなこと ・・・。
今まで経験がなかっただけでしょ? 」
「 ・・・ うん まあ ね。 」
「 この国に来てわかったわ。 正装してお出かけ とか・・・
ああいう機会がほとんどないのね。 」
「 そう かも ・・・ 」
「 まったく無いわけでもないし - 慣れて行けばいいのよ。
この邸には そういう世界にかかわっているヒトが多いから 」
「 だよね~~~ 役者さんにピアニストにバレリーナ ・・・
すごすぎるよ~~~ 」
「 うふふ ・・・ 芸術的な環境 と言ってちょうだい。 」
「 ・・・ せめて ぼくに出来るコト するよ。
うん ジョギング、続けよ。 」
「 そうよ それがいいわ。 ねえ 今度 初心者でも走れるコース
教えてね 」
「 ・・・ いいけど 誰かに推薦するの? 」
「 わ た し。 少し体力 アップしたいの。 」
「 わあ~~~ぉ♪ うん 景色のいいコース、探してくるね 」
「 お願いシマス ~~ 」
「 い 一緒に走れたら いいなあ~~ 」
「 うふふ あら わたし、ペース遅いから・・・
ジョー 飽きちゃうわよ。 」
「 そ そんなこと ないよ! 絶対に!! 」
「 先に行っていいの。 ・・・待っててくれれば 」
「 うん♪ 」
「 さ。 シャワー浴びて汗 流しましょ?
ジョー 汗びっしょりだわ 」
「 あ ・・・ 」
気付けば 彼のジャージは汗滲みで色が変わっていた。
は ははは ・・・
これって 冷や汗 なんだよなあ~~
ああ フランってば全然爽やかな顔だし。
・・・ すごい。 すごいよ~~~
ジョーは 毎朝のジョギングを固く 固く 決意するのだった!
ガタン カタカタ ---
二人が玄関ホールに上がってきた時、 階段が軽やかな足音を響かせた。
「 おう 諸君 おはよう~ 」
楽日を終えた主演俳優氏が 自室から降りてきた。
チノパンにポロシャツ・・・ ラフな服装だ。
「 あらあ おはようございます。 あら もうお出かけ? 」
「 おはよ~ グレート。 早出なら駅まで送るよ? 」
ワカモノたちの申し出に 名俳優氏はにこやかに手を振る。
見れば スポーツバッグにラケットを持っている。
「 いやいや ・・・ 今朝は テニスの約束があってな 」
「 まあ そうなの? どちらへ 」
「 横須賀の会員制クラブでな。 予約を入れた 」
「 あら(^^♪ も~しかして~~ ウチのマダムと ? 」
「 あ? あっはっは~~~~ ノー ノー
もとプロの熟年ご婦人に誘われましてね 」
「 へ~~え♪ 楽しい時間を♪ 」
「 いいな~~~ ねえ 今度 ぼくにも教えてクダサイ 」
「 おお ボーイ、 市営コートで鍛錬しラリーが出来るようになったら
誘おうよ 」
「 - わかった~~~ 」
「 ああ お前さんとこのマダムといえば ・・・ マドモアゼル?
次回の創作小品は 『 リア王 』 だと。 」
「 え。 マダムの ?? 」
「 左様。 吾輩の舞台から多大なるインスピレーションを受けた と。 」
「 そう・・・ なの ・・・ どんな作品かしら 」
「 まあ 楽しみに ― レッスンを怠りなく、とだけ言っておこう 」
ではな~~ ・・・
と 俳優氏は軽くウィンクを残すと玄関から出ていった。
「 ・・・なんかさ~~ グレートって。 カッコイイ ・・・ 」
「 うふふ・・・ 彼はいつでもステキよ 」
「 ・・・ん ・・・ あ フラン、 次の舞台の話? 」
「 新作ね 物凄く楽しみだわ 」
「 フラン ・・・ 出る? 」
「 ううん ううん とても とても・・・ マダムの創作を踊るのは
主役級の方々よ。 わたしはコールドに引っ掛かれば最高 ってとこ 」
「 ふうん ・・・ 大変なんだねえ 」
「 ま ね・・・ 世の中、甘くはないってこと。 」
「 そっか ・・・ うん そうだね 」
ふわ~~~ん ・・・ コーヒーの香りが流れてくる。
「 あ コーヒーだあ~~~ ふんふんふん♪ 」
「 いい香り・・・ アルベルトね 」
リビングのドアを開ければ アルベルトが のんびりコーヒーを淹れていた。
「「 おはよう~~ アルベルト 」」
「 お? ああ おはよう 」
銀髪のピアニスト氏は 彼定番の黒の上下、ジャージではないが
ゆったりとした素材のホーム・ウェアだ。
ふうん ・・・
どんな服でも 雰囲気 あるなあ~
・・・ 悔しいけど さ。
ジョーは 無意識に自分のジャージを引っ張っていた。
「 あ お疲れ様~~ 演奏会、素敵な時間、ありがとう! 」
「 ふん ・・・ こちらこそ だ。 感謝してる。
ありがとう。 お前さんとこのマダムにも御礼、言っといてくれ。 」
「 了解♪ ねえ ねえ アルベルトのショパンも いいわねえ 」
「 ふふん < も > は余計だ。
ああ お前ら 目立ってたぞ 」
「 え あらあ 注目の的だったのは グレート達よ 」
「 そ・・・ ぼくは突っ立っていただけ ・・・ 」
「 ・・・・ 」
銀髪のピアニスト氏は に・・・っと笑った。
コトン コトン。
二人の前に カフェ・オ・レ と 薄めのコーヒーが 置かれた。
「 あ わあ~~~ メルシ~~ ♪ 」
「 ありがとう~~ ・・・ ウマ~~~ 」
「 ふふん 初々しくて微笑ましい、と評判だったぞ 」
「 え ・・・ 」
「 ジョー。 いつもスーツで畏まっていろ という訳じゃあないぞ?
その時々に応じた態度をとれるようにしておけ。
四六時中、 正装で畏まっている必要はない。 」
「 ・・・ うん ・・・ そっか ・・・ 」
「 お前が正装に慣れてないのは よ~~くわかってる。
ただ な ちゃんとする時には それ相当の態度をとれ ということだ。
なにも 野球観戦にスーツで行け とは言わん。 」
「 うん ・・・ だよね~~ いっつも防護服ってわけには 」
「 当たり前よぉ~~ 」
「 ・・・ごめん 」
「 ま お前には その恰好が似合ってるさ。 ワカモノらしくていい。 」
「 えへ ・・・そ? 」
「 まあ~~~ 珍しい アルベルトが褒めるなんて 」
「 ふ ふん ・・・ さあ 朝メシだぞ。
スクランブル・エッグ でよかったか 」
「 わあ~~ 作ってくれたの? ありがと~~~ 」
「 わほ♪ たべよ~~~~ 」
ワカモノ達は どたばた ・・・ キッチンに駆けていった。
「 そうだ! フラン~~~ 野球観戦ゆこうよ~~ 」
「 野球 ?? あの ・・・ わたし よく分らないのよ 」
「 ぼくが説明する! ハマスタ、気持ちいいよ~~~
ヨコハマだからさ 港も近いし 」
「 そう ・・? ジョーは ご贔屓のチームがあるの? 」
「 もっちろん♪ ぼく ハマっ子だぜ? 当然(^^♪ 」
「 ?? わからないけど ・・・ 」
「 いいッて いいって。 あ 出来たら ブルー系の服、着てくれる? 」
「 ?? いいけど ・・・ 」
「 チケット 予約しとくね~~~ わっはは~~~ん♪ 」
― さて 当日はぴかぴかの 秋の空。
「 きっもちいいね~~~~ 」
「 ほんとう ・・・・ ねえ 空の色が濃くなったわ 」
「 うん 高くみえるな~~
あ 今日はバスと電車でゆくけど いい? 」
「 いい いい♪ あ~~ 空気の色も違うわ ・・・ 」
「 ふふふ ね 帰りにさ 散歩しよ? 大通りとかキレイだよ 」
「 そうなの? 楽しみ~~ 」
「 ぼくもさ♪ さ いこ 」
ぱっと 大きな手が差し出され ― ごく自然に白い手が乗せられた。
「 ハマスタへ~~~ れっつご(^^♪
まどもあぜる~ 」
「 うふ ありがと。 ・・・ あら すこし風があるわ
なにか羽織るモノ、取ってくるわね 」
「 あ ぼくのスタジャン どうぞ。 大きい? 袖とかまくって 」
「 いいの? うふふ ・・・ ぶかぶかだけどいい感じ♪ 」
「 えへ ・・・・ 似合ってるぅ~~ 」
さり気なく 俺のカノジョ をアピールできて ジョーはご機嫌ちゃんだ。
二人して手を繋いで いざ ハマスタへ。
好カードで 昼ゲームだけど観客席は8割方 埋まっていた。
「 わあ すごいヒトねえ 」
「 ウン。 でもここからだと 選手もよ~く見えるだろ 」
「 うふふ ず~~~む しちゃう♪ あら ステキなバッターさん♪ 」
「 あ あ ズル~~~~ 博士~~ ぼくの眼にもズーム機能
搭載してください~~~ 」
「 うふふ あ! このヒト 打つわ! 」
「 え ・・・? あ~~~ 」
か~~~~ん ・・・ ふぁうる・ぼ~るにご注意ください
そんなアナウンスが流れる中 ―
「 あ あ 捕れそう~~~ 」
「 ! わ あぶないってば~~~~ フラン~~ 」
ファウル・ボールを捕ろうと 伸びあがる彼女を 彼は必死で捕まえた。
顔ブレブレの写真だが 金髪女子 と 茶髪ボーイ のその姿は
地元スポーツ紙に載り おおいにファンを沸かせたのであった。
「 ― ぼく 明日も走る ・・・ ! 」
そうさ。 走れ ! ジョー
********************** Fin.
*********************
Last updated : 09.06.2022.
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************ ひと言 ************
フランちゃんの ストレッチ・入門講座~~♪
さて ジョー君の ご贔屓チーム はどこでしょう (>_<)
筆者は つばくろう と一緒♪♪